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「公益財団法人川崎市産業振興財団設立30周年を迎えて」
公益財団法人川崎市産業振興財団 理事長 三浦 淳
昭和63年に川崎市産業振興会館が開館し、同時に川崎市産業振興財団が設立され今年で30周年を迎えました。
この間、中小企業の経営支援、新事業創出支援を推進する
総合支援機関「中小企業サポートセンター」を設置(平成13年)し、
新川崎地区に整備された新事業支援施設「かわさき新産業創造センター(KBIC)」の管理運営を受託(平成15年)するなど、
市内の中小企業の経営・新分野進出・産学連携支援、起業家・ベンチャー企業の成長支援、
特に“川崎モデル”と呼ばれる「試作開発促進プロジェクト」や知的財産戦略の活動など“
顔の見えるネットワークづくり”を心がけた効果的な支援活動を展開してまいりました。
その後、新川崎地区に「ナノマイクロ産学官共同研究施設(NANOBIC)」が整備(平成24年)され、
平成31年に開設予定のAIRBICとともにKBICと一体的に管理運営を受託しています。
また、ライフサイエンス分野における最先端の
研究施設「ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)」(平成27年開設)において、
ナノ医療技術の革新的イノベーションを創出する研究活動を推進しています。
これまで果たしてきた成果を踏まえて、地域課題の解決に向けて今後、
中小企業の経営改善や経営基盤強化、成長分野への取組や第4次産業革命対応への支援等の充実を図っていくため、
財団の機能をさらに強化し多様なニーズに応えてまいります。
また、この度の記念事業の一環として財団のシンボルマークを改定し、
未来に向けた新たなスタートの年として位置づけ、
役職員一丸となって中小企業及び科学技術の振興に取り組んでまいります。
30周年を迎えるにあたり、中小企業の皆さまをはじめ、
関係団体・行政機関の方がたに深く感謝申し上げるとともに、
今後におきましても御支援、御協力をお願い申し上げます。
「ロバストデザインとは」
技術士(機械・総合技術監理部門) 庄司 尚史
製品が市場に出た後、不幸にも品質問題を起こしてしまう要因には大きく次の二つが考えられます。
- (1)本来市場に出してはいけない規格外のものが出てしまった: これは生産現場での品質管理の問題で、検査漏れが起きたか、 検査が不適当だった結果です。 日本企業は品質管理のレベルが高いはずでしたが、 最近この事例が増えているような気がします。
- (2)もともとの設計が問題を抱えていた:これには二つの場合があります。 一つは設計ミスで、検図などのチェックを入れることで多くは解決できます。 もう一つはノイズの影響を受けやすい設計になっている場合です。 ノイズとは、例えばユーザーの使用条件や環境変化、部品の劣化など、 システム内外の諸々の変化を指します。ノイズの影響を受けるとシステムが不安定になり、故障が 起こりやすくなります。こちらは根が深く、解決するのは簡単ではありません。
新製品開発では、求められている性能を適正な価格で提供するだけでなく、 上述のように性能を様々な条件で維持し、故障しにくい状態にする必要があります。 これらの設計上の課題を同時に解決する ための方法論を提示しているのが、品質工学の一分野であるロバストデザイン(設計)です。 その要点は以下のようになります。
- 機能の定義:対象とするシステムが担う働きを入出力関係で表現し、これを機能として定義し ます。一つ一つの品質特性ではなく機能を計ることで、総合的な能力を向上させることができます。
- ノイズ因子の設定:機能を変化させる要因、すなわちノイズを因子化して実験に取り入れます。 これにより、偶然ばらつきに頼らず少ない実験数での評価が可能になります。
- パラメータ設計:設計因子を直交表に割り付けて、最適な設計条件を求めます。上記ノイズに 対して機能が安定する条件を求めた後、安定性に影響しない因子で出力を目標値に調整します。 ここでは詳細な説明は略しますが、ロバストデザインでは基本思想や理論だけでなく、実用的な 方法論を提供しています。設計による市場問題の未然防止に非常に有効な技法だと私は考えます。
なお、品質工学はタグチメソッドとも呼ばれ、故田口玄一氏が 従来あった実験計画法をもとに創設しました。 タグチメソッドは1980年代のアメリカの製造業を復活させたと言われており、 田口氏は1997年に日本人として当時3人目の米国自動車殿堂入りを果たしています。
「ビッグデータ時代の中小企業向け産業政策」
技術士(電気電子部門)黒田 雄一
6月末に平成29年度補正予算のものづくり補助金(予算額1千億円)1次公募の採択結果が報じられました。
この補助金は、中小企業の生産性向上や事業変革を国が後押しする成長戦略の一環として、この数年間続いています。
今回は支援対象事業の新たな形態として、「企業間データ連携型」が設けられたのが一つの特徴です。
このタイプは、複数(10社以内)の中小企業がデータを共有して活用する
ことにより付加価値創出や生産性向上を図るという事業を対象とし、補助上限額1千万円、補助率上限
2/3、さらに連携体の参加企業1社当り200万円の補助額が上積みされるという優遇措置が設けられています。
このような「企業間データ連携」の支援は、いわゆるビッグデータ(桁違いにサイズの大きなデータ)の時代を反映した
国の産業政策「コネクテッド・インダストリーズ」に基づいています。
これは、ドイツが国策として打ち出した「Industrie 4.0」(第4次産業革命)の日本版で、
「IoTを通じて集めたビッグデータをAI技術により処理して分析・モデル化し、
さらなるデータの分析と産業上の活用に役立てる」という考え方を反映した産業政策といえます。
例えば最終製品の販売データを部品メーカと共有して、受発注や生産管理の情報を共有し効率を上げたり、
最終製品に組み込まれたモジュールの稼働データをリアルタイムでモジュールメーカと共有して
保守サービスの質と速度を高めたりするような形態がイメージされているようです。
ものづくり補助金の一般型(従来の一社による申請)の応募数と採択数がそれぞれ約1万2千件、
約7千3百件であったのに対して、企業間データ連携型の応募数と採択数はそれぞれ266件、
122件と報じられていますから、
中小企業の事業変革の取り組み全体の中で企業間データ連携の取り組みはまだ微々たるものに過ぎません。
しかし、話題先行で中身に乏しい取り上げられ方が目立つとはいえ、
ビッグデータ、IoT、AIに代表される情報通信技術を核とした事業変革の波は、
中小企業まで含めた産業界全体に押し寄せつつあり、国の産業政策も明らかにその流れに乗っています。
補助金等も賢く利用してこれからの時代に成長を図る中小企業としては、注視する必要がありそうです。
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