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「半導体とロボット」
技術士(機械部門) 磯村 正義
日本の産業競争力を考える時、半導体とロボットとの間に、ある種の類似性があるように感じています。
半導体は米国のキルビーによるIC(半導体集積回路)の発明によって産業のコメともいうべき重要なものになりました。
当初は米国が圧倒的優位性を持っていましたが、やがて日本は米国に追いつき、一時は日本のメーカーが世界を席巻しました。
しかし現在、この分野におけるかつての輝きは日本にはありません。
一方ロボットについても、初めての産業用ロボットは米国で開発されましたが、
その後日本は、産業用ロボットの発展やヒューマノイド(ヒト型ロボット)の開発で世界をリードしてきました。
しかし今グーグルを初めとする米国勢が日本の優位性を脅かそうしています。半導体の二の舞にならないかと強く危惧しているところです。
半導体は資本集約的な産業であり、ロボットは知識集約的な産業であるという大きな違いがありますので、単純な比較は早計かもしれません。
しかし今後の日本の産業が進むべき方向性を考える時、両者のアナロジーは非常に示唆に富むと思います。
かわさき技術士センターも日本の産業力強化のために少しでもお役に立ちたいと思っています。
「フードディフェンス(食品防御)」
技術士(経営工学部門) 和田 吉正
昨年末、アクリフーズ群馬工場で冷凍食品に農薬マラチオンが混入され、中毒患者が10名にのぼる事件が起きました。
2008年の農薬メタミドホス混入中国産冷凍餃子事件の時、日本人は、「こんな食品テロ事件は日本の工場では起こらない」と思っていました。
しかし、食品安全国際規格ISO22000認証取得企業で事件が起きたのです。
マスコミがこぞって報道したことで、「フードディフェンス(食品防御)」という用語が一気に有名になり、
食品各社は慌てて取り組みを見直し、弱点補強する処置を開始しました。
この3年間フードディフェンス監査に携わってきた者として少し解説をさせてもらいます。
取り組み目的は、“悪意の嫌がらせや毒物混入などの食品テロ防止”です。
一方、従来から取り組まれてきたフードセーフティ(食品安全)の目的は、“食中毒、残留農薬・動薬、危険異物等の日常的な食品事故の防止”で、
“意図的な食品危害”を防止するという点では必ずしも十分なものとは言えません。
そこで、意図的な食品汚染行為に対する弱点把握のための監査が行われます。
その切り口の第一は「アクセス管理」です。訪問者や業者の入退場記録、ビデオ監視、持ち物検査、施設入場制限、侵入防止(施錠)、鍵の管理等を評価します。
対象施設は、食品加工場、水源施設、原料庫、包材庫、製品庫、薬剤庫、研究・検査室、排水処理場等にわたります。第二は「危害物質管理」です。
洗剤、アルコール、消毒剤や、食品加工場外で使用する殺虫剤、除草剤、危険物等の危害性の高い物質の保管管理状態をチェックします。
第三は「人的管理」です。従業員採用時の本人確認や作業中の所在確認や不審行動の監視の適切度が問われます。
長時間労働、不十分な安全衛生活動などは問題の温床となります。
日頃のふれ合い、職務充実・改善参画など労働意欲向上施策をより積極的に取り入れる必要性があります。
経営トップから、「フードディフェンスの性悪説的チェックは日本企業には馴染まない」との意見をよく耳にします。大きな勘違いです。
「性善説」を説いた孟子、朱子は、「人の性(本然の性)は善であっても、人は生活環境から影響を受け、放っておけば悪を行うようになってしまう」と教えています。
監視カメラ増設などの管理強化対策に偏ることなく、「性善説」の人間観に立ち、
人と向き合う経営思想の基で、初めて有効な「フードディフェンス(食品防御)」が実現するのだと思います。
「錯覚について」
技術士(電気電子部門) 佐野 芳昭
視覚に関する錯覚は錯視といわれていて、種々の現象や事例が報告されています。
錯視はいわゆるトリック絵やだまし絵とは異なっていて、人間の目の錯覚であり、生理的な錯覚といわれています。
右図は、ジャストローの錯視で知られている図です。
横幅の寸法を比較すれば、三つの図形はいずれも同じ大きさなのが分かるのですが、
上に行くほど小さいように見えていると思います。
これは、図形の大小よりも上下に隣接している円弧の長さで大きさを比較するために生じる現象と考えられていて、脳がだまされているともいえます。
ユニークでユーモアのある研究への表彰で有名なイグノーベル賞の心理学部門で、2004年に「見えないゴリラ」が受賞しています。
これは、「人が何かに熱中している際には、注意を払っていないものには、大きな変化があっても気がつかない」といった研究でした。
上記の受賞者の著書「錯覚の科学」の翻訳本の紹介ページ(http://bunshun.jp/pick-up/sakkaku-kagaku/)などで、
実験映像を見ることができます。
同書では、人が陥りやすい錯覚を次の6種にまとめています。
➀注意の錯覚、②記憶の錯覚、③自信の錯覚、④知識の錯覚、⑤原因の錯覚、⑥可能性の錯覚。
記憶違いや過去の経験、知識のひずみや誤りによる錯覚、思い込みや有力と思われた公開情報などによる錯覚などがあり、
どの錯覚も自分の能力や可能性を過大評価しがちといったことがあります。
いずれも各種の実験による知見で興味深い内容であり、反省させられる点も多々ありますので、ビジネスの世界でも参考になると思います。
対処法としては、これらの錯覚が生じることを理解し、気付きや、認知能力をトレーニングすることだとありますが、人の脳には限界もあるそうです。
皆さまも、近くにいるかも知れないゴリラを探されてみては、いかでしょうか?
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